2008年7月13日日曜日

宮古島リアル

沖縄県宮古島 ROADHOUSE雅歌小屋BASEMENT
「THE HOBO JUNGLE TOUR 2008」
 山口もオレも、宮古島は初上陸。
  空港まで迎えに来てくれたこの日のライブ会場、雅歌小屋のマスターは、プロレスラーのようながっちりした体躯で、腕にはタトゥー(実はシールらしい)、真 黒なグラサンをはめて、ちと強面の風貌(けど、グラサンとったら結構愛くるしい瞳だった)。石垣では出会わなかったタイプ。

 ホテルにチエックインした後にすぐに山口と車を借りて、島を1周する。
 池間大橋で一度車から降りて、海の景色をながめる。あまりの美しさに思わず声がもれる。東平安名崎の景色も素晴らしかったなあ。自分が今まで見たどの海とも違う、特別な美しさを宮古島の海に感じた。
  抜けるような海の美しさとは対照的に、宮古島の街の雰囲気は、どこかくたびれていて、ゆるく、場末のやさぐれ感が漂っていた。徳之島の街の雰囲気に近いと 思った。旅の途中で、こういう街に身を置くと、取り残されたような寂しさを感じる一方で、なんかほっとする。自分を縛っているある種の価値観、時間の流れ から解放された気分。
 奄美大島と徳之島との関係とも共通しているのだが、隣の石垣島に比べると、宮古島の島民の気性は結構荒いらしい。隣の島同士なのに、気質、風土にかなり違いがあるのが面白い。

 ライブが開演したのは夜の9時半を過ぎてから。宮古タイムである。
  演奏中でも途中入場してくるお客が結構いたりして、客席の集中力は散漫になりがちだった。多くのお客さんが、ステージとお酒と会話を同時に楽しもうとして いる様子で、特にライブの前半は、盛り上がるときは盛り上がるのだが、客席が終止ステージに釘付けになるという感じではなかった。1部の演奏が終わる頃に は飲み過ぎて酔いつぶれてしまうお客もいた。
 この日集まったお客の多くは、リクオだかクリオだか、ヒロシだがキヨシだか、よく知らずに来たという人達だったように思う。
 最近こそ、こういう現場は減ったけれど、自分が今のようなツアー暮らしを始めた当初は、そんなにめずらしいことではなかった。そんな環境の中で、自分は自らのスタイルを変化させ、順応させていったように思う。それは食ってゆくためでもあった。
 まずは、その場のお客さんに楽しんでもらうこと。そのためには、自分のミュージシャンエゴや自意識が邪魔になることもあった。それらを押さえることによって、自分は今まで感じることのなかった開放感、自由を得ることもできたように思う。
  今の自分は、こういう現場が嫌いではない。旅をしている気がして、いつもとは違うわくわく感がある。猥雑な空間が好きなのだ。けれど、こういう現場が何日 も続けば、やはり消耗する。ファンでいてくれる人達の前でパフォーマンスできる幸せと、ファンではない人達の前でパフォーマンスできる開放感の両方を味わ い続けることができたら贅沢だろうなと思う。

 2部のステージが始まったのが、11時を過ぎてから。いつものように山口にしばらく休んでもらって、自分のソロコーナーから始める。ステージドリンクは泡盛。
  場の空気と気分にまかせて、その場で歌いたいと思う曲を歌った。歌いだして何か違うと感じたら、すぐに演奏を止めて、違う曲に変えた。それがパフォーマン スとして成立した。ジュリーの「時の過ぎゆくままに」を歌いたくなって、歌ってみたら、はまった。女性の歓声が聞こえる。けれど、その女性はもしかしたら まだオレの名前も覚えていないのかもしれない。
 場の空気、客の視線とリアクションが、自分の中のエロス、オスの部分を多いに引き出してくれた。この開放感に勝るものがあるのだろうか?すごくせつな的。
 自分のソロコーナーを盛り上げるだけ盛り上げて山口を紹介して、いつものように「パラダイス」を一緒に演奏。
 この後、山口が何を歌うのか?
  そもそもこのツアーにおいて、その日の曲順を開演前に決めるのは山口の役目であったのだが、ツアーの途中から彼はその役目を放棄して、ステージ上で曲順を 決めるようになった。オレは彼の曲間のMCや、ギターのイントロを聞いて、次の曲を判断した。別にそれで問題はなかった。むしろ、マンネリ回避になってよ かった。
 で、この時に山口が弾き始めたギターのイントロは、意外にも「満月の夕」のそれであった。アンコール以外の場面でこの曲が演奏されるの は、このツアーの中ではじめてのことだった。彼がこの場面でこの曲を演奏することの意味、大げさに言えば覚悟のようなものを感じて、さっきまでとは種類の 違う高揚を覚えた。
 真剣を抜いたような緊張感と集中力。客席はステージに釘付けになった。その集中力は、アンコールが終わるまでずっと途切れることがなかった。 
 ステージは常に不安との闘いである。この日の山口は、その不安を真正面から乗り越えたような印象を持った。彼の気迫と集中力を引き出す要因の一つとなった「悔しさ」を、自分も忘れるべきではないと思った。
 ある程度流れに身を任せることで自由になろうとした自分と、真剣を抜いて一気に世界を変えた山口、解放へ至る道はさまざまである。
 アンコールはディランの「I shall be released」を、友部正人さんの日本語訳で歌う。
 
 HOBO JUNGLE TOUR、残すところ1公演。

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