2016年7月27日水曜日

だんだんよくする

今月10日(日)に、アルバム「Hello!」発売記念スペシャルライブの最終公演、東京下北沢GARDEN公演を終え、同日に行われた参議院選投票の結果を受け止め、少し身体を休めて、またソロツアーに出て、今週月曜にツアーから戻って、久し振りに曲作りにも取りかかったりしていたら、もう月末。週末には都知事選挙かあ。でも、やっと一息つけた感じなので、近頃を振り返っておこうとブログをアップすることにした。

10日のGARDEN公演については、ブッキングが決まった時点から、この日をひとまずの総決算にしようとの思いがあった。アルバム制作から始まった流れを、これからも続けていくのかどうか、10日のライブの内容だけでなく、そこに至るまでの現実的な結果を受けて、判断を下さなくちゃいけないとも考えていた。

取りあえず、発売記念スペシャルライブと銘打ったバンドスタイルでの名古屋、大阪、東京3公演を終えてホッとした。特に最終公演の下北沢GARDEN公演では、多く人達との関わりの中で、今までにない場を作り、一歩踏み出したパフォーマンスを展開することができたという手応えがあった。現時点で自分が見せることの出来るベストなステージだったと思う。
集まってくれたお客さん、関係者の皆さんからのダイレクトなリアクションには多いに救われた。確実に何かが変わり始めているし、自分自身が一歩踏み出せたことを実感できた。


Photo by 小山雅嗣

ガーデン公演のステージを終えた後に、何人もの知人が楽屋を尋ねてくれたのだけれど、その中の1人に業界の大先輩である伊藤銀次さんがいた。
銀次さんからは、まずこのようなありがたい言葉をいただいた。
「ついにやったね。『Hello!』の完成を経て今日エンターテイナーとしてのリクオが確立したと思う」
その後にはこんな言葉が続いた。
「今回のアルバムだけでは期待する結果は出ないかもしれなけれど、あと2枚、がんばってこの方向で作品をつくり続ければ、結果がついてくると思う。ウルフルズだって結構時間がかかったんだよ(銀次さんはブレイク前からプロデューサーとして長くウルフルズに関わり続けていたのだ)」
銀次さんの言葉を受けて、「あと2枚、この感じでアルバムつくるのは大変だなあ」と思いつつも、嬉しくて感激して、少しウルッとしそうになったくらいだ。銀次さんはこの日のライブレポートとアルバム「Hello!」の紹介を自身のFacebookとブログにもアップしてくれていて、その文章にもとても勇気づけられた。
https://www.facebook.com/ginji.ito/posts/959343164185283
http://ameblo.jp/ginji-ito/entry-12171119125.html


                                                Photo by 小山雅嗣

GAERDEN公演と参院選挙を終えて、劇的な状況の変化は起きなかった。けれど今、そのことを悲観してはいない。
参院選挙の結果と戦後4番目の投票率に低さには、やはりがっかりしたけれど、絶望はしなかった。もう少し正確に言うと、表立った結果は絶望的にも思えたけれど、選挙期間前からのさまざまな動きには希望を見いだすことができたし、それらの動きはある一定の成果をもたらした気がしている。そういった動きが各地で繋がり、一気にではなく次第にひろがってゆけばいいのではと思う。
自分は元々、極端な変化や革命を求めない保守的な一面を持った人間で、特に社会情勢において、劇的な状況の変化は、危険を伴うという意識が強いのだ。

少し一息ついてみて、アルバムをリリースしてからの自分は、結果を早急に求めて焦り過ぎていたのかなと思う。
7月10日のガーデン公演の後に、色々と判断を下そうと考えていたのだけれど、ライブを終え、これまでの状況を受けての自分の気持ちは、想像していたものとは違っていた。

少しずつ何かが変わり始めていることを実感して、今の気持ちは前向きだ。まだ始まったばかり。これからもこの歩みを懲りずに続けて、だんだんよくしていこうと思う。そう言えばオレ、「僕らのパレード」(共作:丸谷マナブ)で、そんなことを歌ってたんやよな。





今回のアルバム「Hello!」は、曲作りの段階から、聴いてくれた人達が歌に自身を重ね合わせてくれることを意識していたのだけれど、完成してみたら、パーソナルな要素も強く含んだ作品になっていた。アルバムを貫く「再生」というテーマは、自分自身のテーマでもあった。ポップで開かれた作品を作ろうと目指していたら、今の自分を投影した正直な内容になった気がする。

こういう作品をつくる事ができて、今自分がこういう形で活動を続けていられるのは、関わってくれるミュージシャンとスタッフ、応援してくれるお客さん、地方を含めた関係者の皆さんの存在があってこそだ。
自分は人と関わることが好きなんだなと思う。元々好きと言うよりは、音楽活動を積み重ねることで、孤独な作業を経て、人と関わり合い、互いを生かし合い、何かを生み出すプロセスにやりがいを感じるようになったのだ。

50歳を過ぎてからでも、面倒を引き受けて、色んな人達とのかかわり合いを続けながら、ともにときめき、いい夢を共有したいと思う。
だんだんよくしていこう。自分自身も、自分を取り巻く世界も。すべては繋がっている。
みなさん、これからもよろしくです。 
ー2012年7月27日(水)


Photo by  小山琢也

2016年7月21日木曜日

白黒を反転させないグラデーション ー 森達也監督「FAKE」を観た

公開前から気になっていた森達也監督のドキュメンタリー映画「FAKE」を、やっと観た。
語りたいことが一杯。いや、語りたい以上に語り合いたい、誰かと感想や意見を交わし合いたくなる映画だった。

噂のエンディング12分間は、期待以上だった。白黒を反転させるのではなく、あえてグラデーションを残す結末が、大きな余韻を残す。映画全体が、2極化に走る社会に対する強烈な問題提起として成り立っていて、安易な結論を許してくれない。もやもやさせされる。でも、そこがいい。さまざまな解釈を許す自由と楽しさが、この作品にはある。

映画が進むにつれて、佐村河内氏と寄り添い合う奥さんの存在が次第に大きくなってゆくのも印象に残った。この映画を2人の愛の物語として観ることもできる。あるいは、愛と信頼に支えられた佐村河内氏の再生の物語と捉えることも可能だ。
ただ、多くの感動を残しながらも、単純に感動のまま終わらせてくれないのが、この映画の真骨頂。

「さまざまな視点と解釈があるからこそ、この世界は自由で豊かで素晴しい」
映画パンフレットの中で、監督の森達也氏がこんな言葉を寄せている。
この態度は、当事者意識に欠けた厭世的態度として否定的に使われることもある「価値相対主義」とは違う、もっとリアルで丁寧、謙虚な感覚に基づいたものだと思う。
自分も、グレイゾーンを行き来し、逡巡を繰り返しながら、少しずつでも前に進んでゆきたい。この映画を観て、あらためてそう思った。

ー 2016年7月21日(木)


2016年7月8日金曜日

光は闇の中に ー 参院選とライブのこと

アルバム「Hello!」発売を記念したリクオ with HOBO HOUSE BANDによるスペシャルライブ・ツアーは、先週末の名古屋、大阪公演を終え、明後日7月10日(日)下北沢・GARDENで最終公演を迎える。その日は参院選の投票日でもある。なんだか自分の置かれている状況と参院選の状況がどこかでリンクしている気がして、ライブと投票日が重なることを、自分の中で勝手に意味付けたりしている。
「Hello!」という作品を作ってからは、自主レーベルを立ち上げ、今まで自分を知らなかった人にも音を届けたい、何とか状況を変えていこうと、元気にもがき続ける日々が続いた。
まだまだやり残したことはあるけれど、これまで現実に向き合いながら正直にやってきたということに関しては納得している。自分の欲や現実に向き合う程、無力さや限界を感じると同時に、可能性や希望も見えてくる。つまり、やってみないとわからないということだ。

時には、色々正直にぶっちゃけてる自分がかっこ悪くも思えるけれど、もう一人の自分はそういう姿をおもしろがっている。
51歳になって「あんな変なメガネをかけて、へんな格好でミュージックビデオ撮って、どうなん?」みたいなことを、人から言われるのも、ありだと思ってる。中途半端にやるよりは、振り切れたほうが面白い。すべてはネタになればOKだ。

参院選は、自分の期待する流れと照らし合わせると厳しい状況だ。
いくつものメディアが、今回の参院選で改憲勢力が3分の2議席に迫る勢いだと伝えている。3分の2に達するということは、自民党の改憲草案に基づいた日本国憲法改正への道が開かれる、戦後日本が一大転換期を迎えるということだ。
立憲主義に基づき、国家の行動を制約するために存在していた憲法が、自民党の改憲草案では、国家が国民に義務を求め
る要素が強くなっている。憲法の宛名が国家よりも国民の側への比重を強くしているのだ。

学校でも教えられた現憲法の根幹をなす三原則(国民主権、基本的人権の尊重、平和主義)の堅持が、改憲草案ではゆるめられている印象を受ける。3分の2の議席獲得後に政権がまず着手すると言われている「災害時の緊急事態条項の新設」の本質は戒厳令であり、独裁を許容し、国民の権利を抑圧するものではないかとの危惧もある。
原発の問題が、ほとんど選挙の争点にならないことにも強い違和感がある。忘れちゃいけないこともあるはずだ。
多くの無関心が、より時代を極端な方向に向かわせようとしている気がする。時には自分自身も、その無関心の側にいるので、えらそうに言える立場でもないのだけれど、さすがにこの状況はやばいなあと思う。

やっぱり現実にも向き合わないと、前へ行けない、希望が見えてこないというのが今の実感だ。さらに厳しい状況になる前に、世の中がもっと極端に流される前に、ちゃんと闇の中で目を凝らしたい。個を確立した上で人と繋がり、自分達で楽しいことや希望を見いだしたいと思う。う〜ん、ちょっと固すぎるかあ。

ここではないどこかではなく、たどりついた場所や与えられた場所をパラダイスにする。瞬間に全てを捧げる。その積み重ねの中で、状況を変えて行く。その基本姿勢に変わりはない。自分達で楽しむ術は、それなりに手に入れたつもりだけれど、今はそれだけじゃダメなんじゃないかって気がしている。自分を取り巻く状況、社会を取り巻く状況、どちらにも危機感があり、その2つはつながっている。こっち側で勝手に楽しみに続けることを、許してもらえない状況が迫っているように感じるのだ。

最近、3.11東日本大震災、福島第一原発事故直後の暗がりの中で感じていたことを、またよく思い出すようになった。
「光は闇の中に」
ずっと前から自分が歌い続けてきたフレーズが、あの状況の中でとてもリアルに響いたのを覚えている。不安と絶望的な気分の中で、どうにか希望を探し続けようとした日々が、自分のあらたなスタートラインとなったはずだった。まじめさとばかばかしさのバランスを取りながら、あのときの気持ちを忘れずにいたいと思う。

長野、高岡、名古屋、大阪とHOBO HOUSE BANDの面々とともにツアーしてきて、自分はホント音楽と人に救われているのだなあと実感している。音楽を仕事にすることで、当然しんどい思いをすることもあるのだけれど、瞬間、瞬間を音楽に捧げ続け、皆とエネルギーを交感し合うことで、すべてが報われてゆく感動を幾度となく味合わせてもらっている。この感覚を持ち続けることができれば、これからもいろんな現実を乗り越えてゆけると思う。

7月10日(日)下北沢GARDENのステージでは、HOBO HOUSE BANDのメンバー、スタッフ、お客さん、アルバム制作も含めて関わってくれるすべての人達の思いを受け取ってパフォーマンスするつもりです。その場にいられる幸せを噛み締めながら、皆さんと最高の一期一会を過ごしたいと思います。
お待ちしています。

●7/10(日)下北沢・GARDEN 03-3410-3431
~リクオ・ソロアルバム「Hello!」発売記念スペシャル・ライブ~
【出演】リクオ with HOBO HOUSE BAND
Dr.kyOn(キーボード&ギター)/椎野恭一(ドラム)/寺岡信芳(ベース)/宮下広輔(ペダルスティール)/真城めぐみ(コーラス)/橋本歩(チェロ)/阿部美緒(ヴァイオリン)
前売り¥4500 当日¥5000(1DRINK別途) 開場17:30 開演18:00
メール予約フォーマット:http://goo.gl/forms/Q7Y0pSdCYs 
参院選投票の証明書か投票場で撮った写真を提示すれば、前売り扱いで入場できます。

■リクオ・アルバム「Hello!」特設サイト→ http://www.rikuo.net/hello/




2016年7月1日金曜日

3度目の17歳

先月、15年のお付き合いになる年上の知人Aさんと1年振りに再会して、色々話しさせてもらった中で、Aさんがこんなことを言っていたのが印象に残った。
「僕はもうすぐ60歳になるんだけれど、自分では3度目の20歳を迎えるつもりでいるんですよ」
プライベートで色々あったらしいAさんは、自身の今を3度目の20歳とすることで、人生の再出発を考えているようだった。前向きな発想だと思った。
Aさんの話を自分の年齢に照らし合わせて考えてみたら、51歳の自分が、3度目の17歳を迎えていることに気づいた。何だか腑に落ちたような気分になった。

1度目の17歳は、自意識過剰の半引き蘢り状態で過ごした。
たまに街に出れば、誰かが自分を見てバカにしてるんじゃないかと過敏になった。常に取り残されたような無力感に苛まれていた。特に何をするわけでもなく1人で夜更かしばかりして、学校では寝てばかりいた。
常に身体がだるく、あまりに無気力な状態が続くので、病気じゃないかと心配になって(あくまでも身体の)、自主的に病院に行って人間ドッグを受けてみたら、検査結果を見た担当医から、精神科を紹介すると言われてしまった。想定外の展開に怖くなり、精神科に行くことを拒否して、そそくさと帰宅した。
あのとき、自分のことを病気扱い、特別扱いにしなくてよかったと思う。そもそも、そんな大袈裟な話ではなく、心身のバランスの悪いティーンエージャーにごくありがちな症状だったのだ。
当時はクリエイティブなことは何もしていなかったけれど、この頃の悶々とした「ため」が、後の創作に役立った気がする。

2度目の17歳にあたる34歳は、前回のブログでも振り返った時期だ。デビューから8年間お世話になった事務所を離れてフリーになり、今のようなツアー暮らしを始めたばかりの頃で、余裕がなく毎日が必死だった記憶がある。
ソロ活動と平行してThe Herzとしてのバンド活動も活発化していて、音楽性の幅がぐっと広がった時期でもあった。とにかく、今のままの自分ではだめなんだと自覚して、いろんなことにトライして、もがきながら前に進もうとしていた気がする。2度目の17歳は、現在に繋がるあらたな音楽生活のスタート、再出発の年だった。

そして今、51歳の自分は3度目の17歳を迎えて、またあらたなスタートを切ろうと、自主レーベルを立ち上げたり、ポップなアルバムを作ったりして、元気にもがいてる最中だ。
状況を大きく変えるのはなかなか難しいけれど、積み重ねた実感と、身につけたたくましさ、しなやかさで、17歳の頃よりも、34歳の頃よりもさらに弾けてやろうと思っている。

人は年を重ねるほど若くなってゆくとヘルマン・ヘッセが語っていたけれど、自分に関しては、あたってる気がする。これって、アンチエイジングとはまた別の感覚だ。
1度目とも2度目とも違って、3度目の17歳は格別だ。こうなると長生きして4度目、5度目の17歳も体験してみたくなる。また違った世界が見えてくるはずだ。4度目の17歳の68歳になって、またあらたな景色の中で葛藤したりするのもいいかなと思う。
取りあえず、まだ人生に飽きることはなさそうだ。

さあ、明日からアルバム「Hello!」発売ツアーの集大成、バンドセットによるスペシャル・ライブ3公演(7/2名古屋、7/3大阪、7/10東京での)が始まります。
チケットが売り切れたりしないのが悔しいけど、今からでも間に合いますので、ぜひ3度目の17歳を迎えたリクオの集大成ライブにお立ち会い下さい。

★リクオ・ソロアルバム「Hello!」発売記念スペシャル・ライブ
出演:リクオ with HOBO HOUSE BAND
Dr.kyOn(キーボード&ギター)/椎野恭一(ドラム)/寺岡信芳(ベース)/宮下広輔(ペダルスティール)/※真城めぐみメンバー(コーラス)/※橋本歩(チェロ)/※阿部美緒(ヴァイオリン) ※は東京公演のみ参加  
●7/2(土)名古屋・得三(TOKUZO) 開場18:00 開演19:00
●7/3(日)大阪・心斎橋 Music Club JANUS 開場17:00 開演18:00
●7/10(日)下北沢 GARDEN 開場17:30 開演18:00
メール予約フォーマット→ http://goo.gl/forms/Q7Y0pSdCYs
ライブ詳細→ http://www.rikuo.net/live-information/
「Hello!」特設サイト→ http://www.rikuo.net/hello/